お題19 熱砂に凍える君と僕

 

アニスさん ジャイロ+ジョニィ

  第二ステージの舞台、アリゾナ。見渡す限り、砂しかない場所。そう、僕らは砂漠にいる。
  こんなにも日光が眩しいものだなんて、感じたことは今までなかった。僕の帽子はツバがないから、瞳に光がもろに飛び込んでくる。
隣で「ファ、カルド」と、訳のわからない呪文のような言葉を繰り返しているジャイロの帽子は、所々穴が開いているからあれも光の遮断役にはなっていないだろう。ジャイロは変だと言っていたが、優勝候補と噂されているマウンテン・ティムの被っていたような帽子だったら、ほんのわずかでも目元に陰を作ることができるのに、と思った。
  眩しいだけでなく、日差しも強くてとても熱い。腕など露出している部分は、日焼けを通り越して火傷していやしないかと思うほど、ヒリヒリする。呼吸した時に喉を通る空気も熱いし、文句なしに砂も熱いんだろうな。愛馬たちの足が可哀想だと思うが、どうにもしてやれない。
  そしてとにかく日陰がない。たまにサボテンが群生していると、申し訳程度にはあったりするが。大きめの岩を見つけた時など狂喜乱舞で、どちらが先に日陰を征するかで、ジャイロと小競り合いをしたりする。体が完全に隠れるような日陰に入れると、ひとまず熱から避難できるので一息つける。
  面白いと思ったのは、風だ。日光に照りつけられながら疾走している時には、多少生温かくとも風はそこそこ心地よいのに、日陰に隠れている時に風が吹きつけると、まるでそれまでの暑さが嘘のように寒さすら感じてしまうのだ。

  さらに信じられないのは、日が昇り、太陽が空を支配している間は地獄のような暑さなのに、日が沈んで夜の帳が降りると、一気に気温が下がることだ。昼間に暑さで汗を流し、夜には寒さでガチガチ震える。とても信じられることではない。でも、僕たちはそんな所にいる。
  夜になると、ジャイロの呪文が少し変わる。とても忌々しい表情で、「ファ、フレッド!」と言い切る。気になったので訊いてみたところ、ジャイロはそれらの呪文をつぶやいていた意識がなかったようで、とても驚かれた。すなわち呪文とは、ジャイロの母国語で「暑い」「寒い」という言葉だったのだ。ジャイロは僕と出会った時からずっと英語で喋っているが、無意識の言葉とかとっさの時にはやはり母国語が出るようだ。
  昼間にあれだけ太陽の熱を取り込んだ砂が、夜も熱さを維持してくれればどれだけありがたいか、と何度思ったことだろう。夜にあれほど冷めた砂が、昼間もその冷たさを保ってくれていたらどんなにか救われたことか、と何度夢見たことだろう。
  ジャイロと僕は、熱砂に凍えながら砂漠にいる。

  〔所要時間:30分〕


秋月雅紀さん ジャイロ×ジョニィ

そのとき、ボクは星を見ていた。日中走りつづけて疲れた身体を大地に投げ出したまま、何も考えずにただ空を眺めていた。太陽が落ちて空が赤く染まった後、地平線を縁取る砂丘の果てはいつの間にか空と繋がって、辺りは切れ目のない深い闇に包まれていた。真っ黒な空に数え切れないほど無数の星の光が輝いて、天を埋め尽くしている。昔の人もこうしてよく空を眺めたんだろうか。星にまつわる数多くの神話があるというのも、今ならわかる気がする。
すぐそばで暖かいたき火のはぜる音がパチパチと聞こえている。鳥の声も虫の音もない夜、他には風の音さえ聞こえてこない。たき火の音だけがやけに耳に付いて、ここが何も無い荒野なんだってことを思い知らされる。
「ねぇジャイロ、流れ星が夢を届けてくれるって話、聞いたことない?」
「ぁあ?知らねぇな。こっちではそういうことになってんのか?」
たき火の向かい側に座っていたジャイロは、カラン、と火の中に枯枝を放り込んで立ち上がった。ボクの見上げる視界の隅で彼の長い髪が少しだけ揺れて、その長身が背を向ける。同じように空を見上げて首を何度か巡らしたあと、ジャイロはボクに近づき、見下ろしてニィと笑った。
「あれがさ、真上より少し下がったところにあるデカイ星な。あれが北極星だ」
ボクに視線を合わせるようにしゃがみこんで空を指差すけれど、ボクにはどれだかよくわかっていなかった。
「どれ?こんなに星が多くちゃ、どれだかわからないよ」
「とにかく派手に光っている星だけ見るようにするんだ。そうでないとキリがねぇからさ」
「だから、どれだよ?」
少しもどかしくなってボクは砂に片肘をついて上半身を起こした。砂だらけになった腕を払いながら、もう一度ジャイロの指差す星のほうへ目をやる。それでも指の先がどの星のことを指しているかなんてわかるわけもなく、ボクは代わりにジャイロの横顔を見た。夜なのに帽子を被ったまま、鍔のすぐ下にわずかに光る鋭い目。少しこけた頬と顎のライン、けれど精悍な大人の男と言うにはまだ少しだけ甘いマスクだ。
「北極星ってのはさ、こんな何も無い砂漠を旅する時や船の旅には欠かせない、方位を知る手段だ。お前も知っとくほうがいい。あの星があるのが正確な北の方角なんだ。覚えとけよ」
「でもさ、その星を見つけられなかったら意味無いよ」
「だからさ、まだわかんねぇかな?」
そのとき、ジャイロの右腕が背中からボクの肩をグッと抱き寄せた。ボクの顔に押し付けられる、ジャイロの横顔。
「いいか、お前の足の先から真っ直ぐ上に線を書くつもりで上を見て、ほら、この角度だ」
ジャイロの真っ直ぐに伸びた腕、その人差し指の先には大きく輝く一粒の星が見えた。注意してみると他の星よりずっと目立つ、あれが北極星なのか。
「わかった、見えたぞ!」
ボクはなんだか嬉しくて思わず声をあげた。
「あれが北極星だ」
  顔を押し付けたまま話すジャイロの低い声が、頬を通して聞こえる。熱い…頬。ボクの右肩を抱き寄せる、力強い腕。耳元で、肌を通して聞こえてくる声。今さらそんなことを意識して、ボクは次の言葉が出せなくなった。だって声を出したら、同じようにジャイロに聞こえるんだろうと思ったから…。
「ところでさっきのお前の話。流れ星がどうしたって?」
「…。」
「…ジョニィ?」
  ジャイロの頬がゆっくりと離れて、ボクの目を覗き込むように少し首をかしげた。彼が離れたのにまだ頬が熱いってことは、ボクのほうが熱かったってこと…?
「流れ星は…夢を運んでかなえてくれるんだって、幼い頃聞かされてた。だから空を見るときは、なるべく瞬きしないように流れ星を探すんだって…信じていた頃があったよ」
「へぇ…。あ、今!」
「え?」
「あそこで流れたぜ、見たかジョニィ?」
「どこどこ?」
「なんだよ、見なかったのか?自分で言っといて目ぇつぶってたんだろう」
  ジャイロはボクの肩を抱いた腕で、ユサユサと揺すった。
「だって…」
「だって、何だ?」
  何故だろう、少し胸が苦しい。わざとゆっくり呼吸をしなければならないくらい。すぐ間近にあるジャイロの顔は、暗くてよく見えないから都合がいい。だって見えていたら、ボクの頬が熱いのも見透かされそうだったから。
  その時急に、たき火の明りが遮られて目の前が真っ暗になった。そのせいでボクは自分が目を開けているのか閉じているのかわからなかったぐらいだ。ボクの唇に、熱いものがゆっくり押し付けられる。そのときやっと、明りを遮ったのがジャイロの大きな帽子だということに気づいた。
少しためらいがちに交わす、吐息混じりのキス。不意にボクの頬をジャイロの乾いた手の平が包み、さらに強く抱き寄せられた。もうとっくに、頬の熱さはバレていたのかもしれない。そうでなければこんな…前ぶれも無くキスなんて…。
  ゆっくりと砂の上に押し倒されて、ボクは改めて背中に砂の熱さを感じた。これは真昼の照りつける太陽が、砂に染み込んだ熱なんだ。日が沈んでも、まだこんなにも熱い。見上げると再びたき火の炎に照らされたジャイロの瞳が、薄暗く光るのを見ることができた。じっとボクを見下ろして、唇を引き結んで。戸惑いとか迷いとか、罪悪感だとか。そんなものが一瞬でグルグルと頭を駆け巡る。ボクだって何も言葉は出てこない。まるで時間が止まったように、ボクたちは凍り付いていた。熱い砂の上だというのに…。

執筆時間 約2時間30分

コラボ ヴァージニアさん ジャイロ×ジョニィ



5/3 05:02〜15:16



揺れる焚き火 5/3 23:40〜5/4 04:00


磐井ケイさん ディエゴ・ブランドー

気高く生きろ、と母は言った。
熱いシチューに手を焼かれながら、それでも限りなくやさしい顔をして。

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新しい食器が手に入ったあとも、母の酷い火傷が包帯で隠されても、自分の脳裏からあの日の情景が消えることはなかった。
湯気の向こうに滲んだ、どこまでも静かな母の表情。自分たちを見つめる、淀んだ視線の感触。涙も鼻水も一緒くたにすすり上げた、一杯のシチューの味。
多分一生、忘れられまいと思う。小汚い貧民のガキから名門貴族の階級にまでのし上がり、英国最高のジョッキーの名声をほしいままにした今に至ってすら、それはまるで、ついたばかりの生傷のように、じくじくと胸の奥で疼いて、血を流し続けている。

凍えるのだ。どうしようもなく。
傷からの出血が多すぎる。寒い。寒い。このままでは死んでしまいそうなほど。

自分たちを見くだしていた連中を、もっともっと高いところから見おろして、踏みにじってやる。そうはっきりと決心したのは、いつの頃だったろう。
ここまで登りつめるのは楽ではなかった。それこそ本当に――比喩表現ではなく――血の滲むような日々を耐えて耐えて、今の自分はあるのだ。
それでも、高いところに登れば登っただけ、血を流す傷は癒された――あるいは、そんな気がした。自分の名声に惹かれて周りに集まるやつらの、媚びをたっぷり含んだ笑顔だとか賞賛の言葉だとかを受けている間は、確かに凍える感覚は薄れていたから。

SBRレースに参加したのも、同じ動機からだった。世界中が注目する、前代未聞の大陸横断レース。その頂点に立つというのは、いったいどんな気分だろう。
きっと、今まで消える事のなかった痛みを、凍えるほどの寒さを、すべて完全に消し去ってくれるほどに、いい気分であるに違いない。

だから、と、熱い砂を運んでくる強風のなかで考える。
だから、このレースに負けるわけにはいかないのだ。敗北――なんといやな響きだろう――などしてしまったら最後、胸の傷は一生涯、いや、死んだあとも癒えることはあるまい。それだけは確信できた。

負けないためだったら、なんだってやってやる。
熱砂の中ですら凍えてしまうほどのこの寒さを、癒やすためだったら。

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ディエゴは、砂の上で意識を取り戻した。思わず声を上げそうになるのを押さえて、横たわったままの姿勢でそっとあたりを確認する。
目に入ったのは、自分と同じように砂の上に転がっている幾人かの男女。立っているのはジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースター、派手なコートを着た、血まみれになっている見知らぬ男。
――いや、見知らぬ男ではない。
ここ数時間の記憶がなぜかはっきりしないが、そのおぼろげな記憶の中で、その男は確かに自分と一緒にいた。そして、自分に何か命令をしていた気がする。そうだ、ツェペリとジョースターを襲え、と。彼らの持つ『遺体』を回収するために。
遺体。
はっとして、ディエゴは再び、こんどはより注意深く、自分の周囲を見回した。
巡らせた視線の先に、それはあった。掌におさまるくらいの大きさの、ややくすんだ白色をした球体。人間の眼球だ、と直感で理解した。もう片方は見当たらなかったが、今のところはどうでもよかった。
あの眼球を手に入れれば、自分は確実に、今よりも高いところにいける。理由もわからないままそう思った。あれが欲しくて仕方がない。ディエゴはゆっくりと体を起こし、極力足音を立てないように眼球へと歩み寄った。その動きに気づくものは、まだ誰もいない。
足元に転がる白っぽい球体へと手を伸ばす。むき出しの人体の部品に手を触れることに軽い躊躇がないでもなかったが、それを欲する気持ちは、そんな些細な迷いをすぐに打ち消した。
拾い上げたそれは、僅かな星明りをはじいてどこか美しかった。既に死んだものであるはずなのに、それに触れた手から何かエネルギーのようなものが流れ込んでくるような気さえした。
ディエゴの唇に、小さく、しかしはっきりと笑いの色が浮かんだ。

この眼球はきっと、自分の寒さを癒やしてくれる。

そのままふと顔を上げると、こちらを見ていたのか、ジャイロと目が合った。右目の色が少し変わっている。見当たらなかった眼球は、「彼のものになった」のだろう。
ディエゴはますます深く、唇に微笑を刻む。

ツェペリもまた、自分のように凍えていたのだろうか。遺体の他の部分を持っているというジョースターも。だから自分と同じように、この遺体に――死んでなお、生のエネルギーを放ち続けるこの遺体に、固執するのだろうか。

ディエゴは笑ったまま、足元に口をあけていた崖へと身を投げた。ジョニィが上げた声が、耳に突き刺さる。自由落下の不快な浮遊感を味わいながら、ディエゴは自分の左目に『眼球』をあてがう。
素晴らしい解放感が、身体を包んだ。

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残りの遺体もすべて、自分のものにしてやろう。それが既に他人のものであっても、構うものか。そのうえでもちろん、レースの優勝トロフィーもいただく。
そうやって他者より完全に高いところに立って初めて、血を流す傷も胸を凍えさせる寒さも、完全に癒やされるだろうから。

所要時間 約3時間

コラボ 秋月雅紀さん ディエゴ・ブランドー



走行タイム 3時間



桐崎コンブさん ジャイロ&ジョニィ&ティム

  人類史上初の試みと歌われたスティール・ボール・ランレースも、2ndステージの中盤へと向かっていた。
  レースの先頭を走るのはジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースター、そしてマウンテン・ティムの三名だ。彼らは先に降りかかったブンブーン一家の来襲を潜り抜け、目的地まであと数百メートルという所までその駒を進めていた。

「中継地点へつけば、この疲れも多少癒すことが出来るだろう」
  そう呟いたのは優勝候補のカウボーイ、マウンテン・ティムだった。彼は愛馬を操りながら中継地点のゲートをただ見やっている。
  ここまで長距離を走ってきたこと、そしてそれ以上にブンブーン一家というスタンド使いとの戦闘により、彼等には相当な疲労がたまっていた。

  馬のひずめが鳴り響く中、ゲートは徐々に近付いてきている。
「そうだなァー。あの町で疲れを取れるんなら、少しくらい加速しても支障はねぇだろーナァアー!」
  ティムの呟きの暫くの後、近づいた目的地を睨むようにして眺めたジャイロはそう続き、一気にその愛馬を走らせた。次の目的地はこのレースにおけるポイントうんぬんに関係があるわけではなかったが、彼の負けず嫌いとも言える性分は、一位到着以外の結果を受けることは許せなかったようだ。
  一人急に加速してゆくジャイロは一馬身二馬身と他との差を広げ、一気に先頭に踊り出る。
「ジャイロッ! 一位になるのは僕だッ!」
  一瞬あっけに取られて反応を鈍らせたジョニィではあったが、彼も同じように馬を速めて先頭に追いつこうとする。
  ジャイロの馬が先頭を行き、ジョニィが僅差でそれを追う。残り、マウンテン・ティムはそんな二人の背を見やりながら、一瞬にやついて叫ぶ。

「お前達! そんなに焦っても 損 な 人間になるだけだぞ!」

  唐突に吹き付けられた言葉は、イケメンと呼ばれるカウボーイの楽しそうな顔とは裏腹にその地位を二人の中で失墜させた。そして何よりもその寒さで二人を凍りつかせることとなる。
  固まった二人の馬はアーチ手前という所で徐々に減速し、ついにはティムの愛馬に接近を許したままのゴールとなった。
  その差、あったかなかったか。

『お疲れ様ですー! Mr.マウンテン・ティム、貴方が一位通過ですよ。』
  そんな係員の言葉すら起爆剤になり、
「ティムー! それは卑怯だッ! 俺のほうが首1コ速かったッ!」
「違うッ! 今のは明らかに僕が一位だッ! オヤジギャグを言うような奴に僕が負ける訳がないっ!」
結果、一位争いが起こることとなる。

  おしまい。


  所要時間:約3時間



不動 明さん ジャイロ&ジョニィ



5/7 15:00



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