(→13「運命」の続き)
第三ステージゴール後。馬の鼻紋確認の間、時間を持て余している参加者達にインタビューせんと、トリビューン紙の記者達が怒濤の如く駆け回っていた。このレースは、「どの参加者が優勝するか」という賭けが行われており、それに対して参加者の情報を世に流す必要に迫られていたからであった。
例えば、莫大な賞金で面白おかしく暮らすために参加した者と、命懸けの理由で莫大な資金が必要なために参加した者、スタミナのある若い馬に乗っている参加者と、あまりスタミナのない馬に乗る参加者、年老いた馬に乗る参加者、そもそも馬でない参加者など、賭けをしている者達は、参加者の個々の情報を重要な参考資料として賭けていたからである。
ある記者は、「参加動機は賞金ですか?」という問いに、肯定だったらさらに「何に使われる予定です?」、否定だったらさらに「あなたの宝物はなんですか?」と質問する担当だった。その答えから、参加者の精神的に背負っているものを見出し、レースにかける意気込みを伝えるのが目的だ。
ポコロコは「金で楽するぜ〜」とご機嫌で、ディエゴは「頂点に立つためだ」とだけ答えて記者を振り切り、ホット・パンツは相変わらずどの記者にでも「お仕事、ご苦労さん」と労って回答をかわしており、ガウチョは「当然、賞金だ! 遊んで暮らすぜ!」と答えていた。
ゴール直前に湖に飛び込んだため、よく言えば水も滴るいい男、見たままで表現すれば濡れネズミのジャイロが、ジョニィと一緒にこちらに来るのに気づいたその記者は、すかさず二人に接近し、質問を浴びせた。二人ともが否定の回答をしてそのまま去ろうとしたため、記者はすかさず「あなたの宝物を教えてください!」と叫んだ。
ジョニィは(聖人の遺体だなんて言えやしないだろ)と思いつつ、ジャイロの方を見ながら「宝物ォ? 今は…友達かな。」と誤魔化した。一方ジャイロは、「宝物ねえ…、皆の健康と平凡な日常生活、だな。」と答えた。ジャイロの答えを受けて、記者がさらに質問を浴びせようとしたところ、同じことを思ったジョニィに阻まれた。
ジョニィ:「そんなのが宝物?」
ジャイロ:「おまえが、そんなこと言うか? 五体満足の健康のありがたさは、おまえが一番よくわかってるだろーが。まあ、何事もない無事な日々を過ごすことができるありがたさっつーのは、とんでもない状況に巻き込まれた時にしか実感できないだろうけどな。」
そう答えたジャイロの瞳は、時間も空間も超えた何処かを見つめているようだった。ジョニィは理解した。ジャイロはきっと、自分の父親が死刑執行人だとわかった時に、平凡な日常のありがたさを実感したのだろうと。
(→18「まだいいって言ってないのに…!」に続く)
〔所要時間:30分〕 |